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Only you……番外編
第8章 発作

――ひ、しょ……?
静寂を破ったのは透真の叫ぶような声だった。
「どこまで僕を馬鹿にすれば気が済むんだ!!」
早口にまくしたてると、透真は伯父の机に詰め寄った。掴みかからんばかりに身を乗り出し、さらに怒鳴りつづける。
「秘書だと? ふざけるな!!」
伯父の言葉は、私にとっても驚きだった。“秘書”という言葉で想像するものは、落ち着いた女性で――それは透真には全く当てはまらなかった。
「くそっ! 馬鹿にしやがって……っ!」
悔しそうに唸る透真の声。
私の胸はキリキリと痛む。
私さえいなければ、透真は望む地位をもめることなく手に入れることが出来たのに。
私さえいなければ、伯父は怒鳴り散らされる必要はなかったのに。
――なんで、私なんかが――。
――なんで私なんかが、まだ生きているんだろう。
突然呼吸が止まり、目を見開いた。
胸を掴んだまま床に倒れこみ、丸くなる。
心臓が握りつぶされそうなほどに圧迫される。
手足から血の気が失せていき、次第に意識が朦朧としてくる。
そしてまた、意識を手放すのだった。
もう二度と目を開くことが無いようにと――。
強く祈りながら……。
それなのに、私は目を開いてしまった。
そこに映ったのは真っ白い色。一点の染みもない綺麗な――天井だった。もうよく見慣れている天井だった。
白いベッドに白いカーテン、白い壁に白いドア。
間違いなく病院の一室だった。
――死ねばいいのに。
自分1人では呼吸も出来ない私は、機械に命を預けている。そして機械を手放せば、今度は薬に頼る。結局1人では何にもできはしないのだ。
――死ねばいいのに。
生きる意味なんで無かった。
生きる意味を持ちたかった。
私が生きていてもいいのだと、言ってくれるような人に出会いたかった。
それはわがままな願いだったのだろう。
私はいつまで経っても、邪魔者なのだった。

