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Only you……番外編
第9章 見舞い

空に星が浮かび上がり、月にかかった雲が美しかった。
眠るのは怖い。独りになってしまうから。
夢のなかでは、私は独りぼっち。いつまでも泣いている、幼い子供なのだ。
両親に見捨てられ、兄に蔑まれ、学校にもまともに通えなかった幼少時代そのものが、夢の中でも再現される。そのたびに私はうなされて、助けを求めるのだった。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
その夜も心臓が痛みだし、慌ててナースコールを手探りで探す。
「うっぐぅ……」
呼吸が出来なくなり、ようやくコールした時には、もう意識は曖昧になっている。
医師と看護士が現れ、鎮静剤を打ったり、マッサージをしたりした。だんだんと落ち着きを取り戻すと、睡眠薬が効いてきて再び眠りにつく。今度は深い、深い眠りへ――。
翌日も窓の外を眺める。もう飽きるほどに見慣れた風景。幼い頃からこの病院のこの病室は、私の定位置だった。それはいい年になった今でも変わらず、お世話になりつづけている。
「貴正さん、調子はどうですか?」
若い看護士の声がした。私は適当に笑っておく。調子なんてものは、突然悪くなるものだ。今良くたって、どうせまた悪くなるにちがいない。
朝食はまともに喉を通らなかった。食欲は殆ど無い。何も食べなくても空腹感は全く無かった。飲み物さえ、必要としなかった。
ただ窓の外を見て、ぼーっと過ごす。それが日課で、それが私の生きる道なのだ。今までも、これからも。
コンコン――。
ノックが聞こえた。
私はまた伯父が来たのかと思い、顔は窓の方へ向けたまま返事をした。
ドアが開けられる音がして、カツカツと近づいてくる。そして傍の椅子に腰掛けたようだった。
しばらく沈黙の時が流れた。
「貴正……」
声がした。
――……え?
聞こえてきた声――それは明らかに伯父のものではなく、それは……。
「透、真?」
慌てて顔を向けると、そこには透真が照れくさそうに笑っていた。
心臓がきゅっとした。
「具合、どう?」
「……普通」
「僕、決めたから」

