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顧みすれば~真の愛~
第32章 失われた時を
帳場で算盤を弾いていた母が顔をあげる


「あら紗英 お帰り」


にっこりと美しく微笑む。


この人はいつもそう。


すべてを知っていて


すべて知らないふりをする。



私は三つ指をついて挨拶する


「女将 ただいま戻りました」


「おかえり。

 時間あるんでしょ。

 少し奥で休んでいきなさい」


「ありがとうございます

 女将、ご心配お掛けしました」


私は頭を下げた。


「無事に帰ってきてくれて良かったわ。

 山下さんが逐一報告してくれるから

 毎日紗英に会っている気分だったのよ」


ふたりで顔を見合わせて笑った。


「今もおじさまが

 成田まで迎えに来てくださったの」


「まあま、

 あの方の紗英病も困ったものです」


ひとしきり話をして

私は奥の部屋へと下がった。


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