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悪戯な思春期
第2章 重ねた王子様は微笑んで
ファーストシングルの゛KILL゛に熱狂するファンの間を駆け抜けたのだ。
ステージの上からとはいえ警備員の隙間から投げキッスを送る彼は、王そのものだった。
『僕に殺されたいのは誰?』
ドームの中心で妖艶に囁くと、首都を揺るがす程の五万人の叫びが轟いた。
『殺してあげる』
それを合図にマントを脱ぎ捨て、上半身をさらした冬のライブは記憶に焼き付いて離れない。
鍛え抜かれた肉体はスクリーン越しでも感じさせる。
彼の隣に行くためなら、人を殺せるファンは確かに存在するだろう。
ポンと頭を叩かれて、回想が消える。
「目が止まってたぞ」
いつの間にか商店街を抜けた路地にいた。
西は戸惑う私をからかう。
「何言っても『うん』しか言わないから、色々誓わせちまった」
「え、何を?」
焦る私を置いて、彼は駅へと踏み出す。
「勉強のときはメイド口調になること」
「嘘だ!」
「それから、一日一回電話すること」
「束縛彼氏か」
身に覚えのないことばかり言われ、私は必死で打ち消そうとする。
「それから……」
西は足を止めた。
意味ありげな笑みに背中が冷たくなる。
「お互い名前で呼び合うこと。椎名」
私は腰が落ちそうになった。
(瑠衣様の声で……卑怯なんだから)
「わかった? 椎名」
何度も名前で呼ばれ、くすぐったくなる。
思えば、家族のいない自分にとってそう呼ぶ男性は西が初めてだった。
(……泣きそう)
「椎名?」
目が潤んでいる私を心配そうに見る西。
私は深く息を吸いこんで、彼の眼を真っすぐに見つめた。
「はい、雅樹」
ワープは存在するかもしれない。
雅樹と話していると、それはそれは早く駅にたどり着いたのだ。
改札口で別れる前に、私は彼の胸に甘えた。
今朝までの悩みが下らなく思える。
(雅樹は私の彼氏だ)
「嬉しいけど……誘われると自制利かなくなるよ、椎名」
私の肩を押して遠ざけながら、雅樹は警告する。
その瞳は獲物を狙う鷹のごとく、人混みの中で光る。
(それって、そういう意味だよね)
雅樹が強引に私に改札口を通らせる。
だが、すぐに引き返し切符を無駄遣いした私を見て、呆れたように吹き出した。
「なにやってんの?」