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悪戯な思春期
第2章 重ねた王子様は微笑んで

 翌朝、教室に入るとすぐに雅樹と目があった。
 窓にもたれかかり友人と話す彼は、周囲に怪しまれない程度に微笑んだ。
 応じようとしたとき、やらなければいけないことを思い出す。
 雅樹の視線からどうにか逃れ、私は美伊奈の元に行く。

 普段と変わらずゴテゴテした飾りがついた携帯を弄る美伊奈。
 化粧もいつも通り手抜きが一切ない。
 目を伏せて携帯を持つ彼女は、テレビの画面越しにいるように可愛かった。
 だが、すぐに昨日のことを思い出し私は朱くなった。
「美伊奈……」
 割れ物を触れるみたいな私の声に、彼女は顔を上げる。
 怒り。
 恥じらい。
 混乱。
 悲しみ。
 そんなものは何一つない。
 美伊奈はただ、純粋に笑って見せた。
「はよ。椎名ぁ」
 ペイントされたネイルが朝日に輝く。
 私は頭が真っ白になって、それでも親友に答える。
「おはよ、美伊奈」
「あらぁ? 昨晩瑠衣に充電されてきたんじゃないの?」
「え?」
 ニヤニヤする彼女は、小悪魔みたいだ。
「え? じゃないでしょ。昨日のミュージックカーニバル見なかったの?」
 通称『Mカル』こと人気音楽番組の名を出され、尚更話題に取り残される。
「CRAZE歌ってたんだよ?」
 その五文字に私の頭は急沸してしまう。
(え? マジで? 瑠衣様が昨日生でCRAZE歌ってたってこと?)
(昨日のテレビ当番吊し首~)
(忘れてたのは自分だろ)
(ありえない、見たかったぁ)
「見たかったぁ!」
 荒れ狂う自分を押さえて出たのは、最後の言葉だけ。
 そんな私の反応を、美伊奈は愉快そうに眺めている。
「しかも……タキシード」
「本当に!?」
「途中でシャツ脱いだし」
「有り得ない!」
「アップが多かったし」
 どんどん追い詰める美伊奈の口を閉じる。
 すると指先にグロスが触れ、一瞬で蘇る電話越しの出来事。
「ん?」
 口を塞がれたまま首を傾げる美伊奈は、まるであの出来事が夢だったみたいに普通だ。
 私は少し怖くなった。
(なかったことにするの?)
 衝撃なのはそれだけではない。
 美伊奈の態度は腫れ物を嫌うのではなく、まるで小さな秘密を共有した子どもの悪戯そのものだった。
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