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【SS】目が覚めたら…?
第28章 【ファン感謝】白雪姫 ③王子(モモ)




 いつからだろう――。

 城から出られないことを日常なのだと諦観を始めたのは。

 だけど決して希望を失っていたわけではない。



 自由が欲しい。

 もっと広い世界を見てみたい。


 閉じ込められれば、その欲求がますます煽られるんだ。



――姫、待っていてくれ、必ず会いに行くから……


 お母様によって閉じ込められていたあたしの心を支えていたのは、名も顔も思い出せない、低い男の声。

 その声が脳裏に心に蘇る度に心がじんとして、あたしはここで待っていないといけないような気持ちになった。

 待てばきっと、自由が貰えると。


 あたしにとって"彼"の言葉は、希望という名の"約束"。

 いつか必ず、あたしをこの変わり映えのない退屈で窮屈な環境から、助け出してくれるものだと――。


 そのあたしが保身に自ら城から出ようとして、結局出られない。

 約束を反故にしなくてすんだと喜んでいいののか、約束はただの幻想だと虜囚の事実に悲しんでいいのかわからない。

 なんとも複雑な思いがあたしの胸を占める。

 だけど、ここに残ると決断したのは、あたし自身。

 そのために男の手をとったのは事実だけれど、すぐに離した。

 そう、これは城外に出ないという意思を伝えることに必要だっただけの行為。それ以外のことで心を預けようとは思えない。


 先導する男とは一定の距離が開いている。男は寡黙だが、あたしが足を止めれば足を止めるし、背中だけであたしの気配を感じ取っているようだ。

 横に並んで会話するほどの信頼関係は確立できていない。だからこそ、この距離感が正しいのだということを悟っているこの男は、理知的な顔から想像出来る以上に聡いのかもしれない。

 長身で細身の体躯。シンプルな白いブラウスに黒いズボンと、みなりは質素だが、仕立てられた服地は上質だということ遠目でもはわかる。無駄な装飾がないだけ、この男自身の颯爽とした美しさを際立てている気もしてくる。

 若いのは間違いない。あたしと同じくらいか、僅か下か……。

 身分は低くないだろう。物腰から漂う気品さを思えば、きちんと作法を教育される環境にあったということだけはわかる。
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