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【SS】目が覚めたら…?
第28章 【ファン感謝】白雪姫 ③王子(モモ)
 

 不意に、男が呟くように言った。

 
「俺には美しい薔薇の手入れができません。どんなに愛でたくとも、愛でる術がわからない。いや、愛でる資格すらないんです。だから――」


 その顔は、からかうような笑いを消し去った真摯なもの。その真剣さゆえにきゅんを通り越したあたしの胸は、脈打つような早い鼓動に苛まされる。


「代わりに守っていました。あなたが大好きだったこの薔薇達を。もう一度あなたが笑顔になれるように」


 切なげなその目はあたしを見つめ、小刻みに揺れて。


 
「城の中にいるあなたを守れない代わりに、城の外に在るこの薔薇園を」


 ゆらゆらと、彼の意志を伝えたいかのように。



 ……だが、あたしにはその意味がわからなかった。まるで謎かけのようにしか思えない。
 

「手入れが出来ないのに、どう薔薇園を守ってきたというの? 手入れをしないで、この薔薇を綺麗に保てないわ」


 男は薄く笑った。


「これが理由です」


 男は横にある白い薔薇を一輪手折る。そしてその白い花弁を手で毟り、その手を茎になってしまった尖端に被せた。

 そしてその手をどけると――。


「えええ!?」


 白い薔薇の花弁が復活し、瑞々しい生気を見せていたんだ。

 消失したはずの薔薇が、再生されている――。



「あなた魔法使いなの!?」


 あたしの驚いた言葉に、男は満足気に笑った。


「俺にはできることとできないことがありますが、王妃から、薔薇とあなたを守るくらいの力はあります」


 向けられた視線は真剣ゆえに鋭くなり、かつて冷気を放ったその眼差しは、じりじりとあたしを焦がすような灼熱の温度に上昇する。


「俺は、あなたの役に立ちます」


 黒い瞳の奥に、ゆらゆらと揺れる炎が大きくなっている。


「俺に身を預けて下さい」


 ああ、彼から放たれる熱に……、全身を包まれ発火してしまいそうだ。


「ひとときでいい。守らせて下さい。俺に寄りかかって下さい」


 ドキドキうるさいこの鼓動を、誰か鎮めて。
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