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甘いだけの嘘ならいらない
第5章 優しさだけのアイロニー
食器を片づけた後、髪を乾かそうと洗面所に行くと、英士くんに後ろから抱きしめられる。
ドライヤーのコンセントを差すと、水を吸って濡れたタオルを退けられて、濡れた髪に指が触れた。
「……英士くん?」
「俺が乾かしてあげる。ドライヤー貸して?」
「え、でも…」
「何でもいいから、理紗に触れたいんだよ。おねがい」
英士くんは耳元で甘く囁くと、あたしの手の中からドライヤーをとって、乾かしてゆく。
鏡の前で顔を赤らめているあたしを満足そうに見つめて、英士くんは温風をかけながら指を無造作に動かしていく。
英士くんの言葉に、体温に、息遣いに、そのすべてに心を締めつけられて、胸がきゅうっとなる。
過ごした時間が長くなればなるほど、熱は覚めるものだと言うけれど、あたしは英士くんの仕種にも声にも、優しさにも、ずっとドキドキしっぱなしで、いつまでも慣れることができない。
あたしばっかりドキドキさせられてる気がして、せつなくて、ずるいなあって思う。
いつか、あたしよりももっと、英士くんの瞳に魅力的に映る女の子がいたらと、不安にならずにはいられなかった。