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甘いだけの嘘ならいらない
第5章 優しさだけのアイロニー
早朝に翔のマンションで苺ジャムのトーストとミルクティーを飲んだきりだったから、言われてみれば空腹かもしれない。
「理紗の好きなだし巻きたまごと焼き鮭。ほうれん草のバター炒めも好きだよね」
「うん、好き」
「冷めないうちに食べよ。風邪引かないように、首にタオルかけとこうか」
「あ、ありがと…」
テーブルには湯気のたつ美味しそうなご飯とおかずが並べられて、忘れてた食欲がすっかり戻ってきてる。
英士くんがあたしの隣に座ると、手を合わせて、いただきます、と口にした。
英士くんはご両親が物心つく頃に離婚していて、お母さんがシングルマザーで育ててくれたから、ひとりでごはんを食べることが多かったみたい。
男の人で料理ができる人も最近は多いけど、英士くんもそうで、あたしが作れない日や休日にはごはんを作ってくれる。
そのどれもに愛情を感じるから余計そう思うのか、美味しいものばかりだった。
「美味しい…英士くんのごはん食べれて、あたし嬉しい……」
「どうしたの、理紗。そんなしんみりしないでよ」
「うん…」
「こんなの、いつでも作るよ。俺が就職して、理紗と結婚してからだって、それは変わらないから」
「っ、うん…ありがと」
しみじみ言われるとなんか照れる、と英士くんは笑って、あたしも微笑んで、ゆっくりとごはんを平らげていった。