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誘淫接続
第2章 第十の接続
 「そんなことだからねぇ、キミらは恋人できないんだって、へへ……あ、でも東くんはモテすぎて恋人できないだろお? うん、分かる、そうだ絶対。キミにはね、地味なコが恋人には案外いいんだよお?」
 松戸は麻琴を指さしながらそう言うと、新しい粘土が置いてある棚の方へ行った。
 『恋人』という言い方がどこか古くさい。

 それよりも、松戸の余計なひと言で隆一に変に意識されてしまわないかと心配になる。
 麻琴はごまかすようにとっさに口を開いた。
 「ごめんなさい、邪魔しちゃって」
 「あ、松戸さん僕に話しかけられてたんですか?」
 隆一はただうつむいているのかと思いきや、集中して作業を続けていた。
 麻琴は少し拍子抜けすると同時に、安堵した。
 「何ておっしゃってたんでしょうか?」
 「何か、いろいろ」
 隆一は顔を上げ、麻琴を見てほほ笑んだ。
 「寂しいんじゃないですかね」
 麻琴は、自分に言われたような気がした。
 同時に、隆一のほほ笑みを見て、あんな程度で松戸にいら立った自分が嫌になった。

 隆一は再び下を向いて作業に没頭した。
 しっとり濡れた粘土を愛撫している、細長く繊細な指。
 体つきも細身で、髪もワックスなどでこれ見よがしに固めることなどせず自然なこざっぱりとした感じだ。

 全体の雰囲気はいわゆる『草食系』といったところだろうか。
 目はやや切れ長ながらも優しさをたたえている。
 眉毛はことさら手入れはしていないようだが、真っ直ぐ斜め上に綺麗な形を描き、知的な雰囲気をかもし出している。

 事実、隆一の出身大学も勤め先も、聞けば誰でもその名を知っているような超有名どころで、麻琴とは全く釣り合わない。
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