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誘淫接続
第3章 第十三の接続
 自転車は公園のフェンス沿いに走ってくる。
 立ち上がってジーンズを履き直している余裕はない。
 今立ち上がれば逆に姿を見えやすくするだけだ。動くことで落ち葉ももっと大きな音を立てるだろう。

 麻琴は必死に息をひそめた。
 自転車が麻琴の隠れている壁の裏に差しかかる。
 気づかれなければ、何もなければ、このまま通り過ぎていくはずだ。

 その時、ジーンズのポケットに入れていた貞操帯の電池ボックスが落ちた。
 落ち葉がガサッと音を立てる。
 ――!!

 麻琴は、心臓が止まったかと思った。
 しかし心臓は止まりはせず、むしろその鼓動を速く強くしていく。

 自転車のペダルの音と、チェーンがギアに掛かる音、タイヤが地面をつかむ音が聞こえる。
 麻琴はそれらの音が止まらないように祈った。
 もしここで音が止まったならば、それは麻琴の真近くで自転車が止められたということになる。

 自転車の音は続いている。
 高鳴る心音が爆音のように感じる。
 この心臓の音で気づかれてしまうのではないか? とさえ思う。
 いっそ、心臓が止まってくれた方がいい。

 やがて、自転車の灯りがさっきとは反対側のフェンス沿いに現れ、遠ざかっていった。
 ちょうど、麻琴の真後ろの角を曲がっていったのだ。
 麻琴は大きく深呼吸した。
 そして麻琴は急いでショーツとジーンズを履き直し、電池ボックスをポケットに突っ込み、スマホの電源を切って逃げ出すように茂みを出た。

 ――もう……
 ――やめよう。
 ――終りにしよう。
 ――もういい。
 ――もう、いい。

 麻琴は精いっぱいの力で、深夜の住宅街を駆け抜けた。
 途中で、雨が降ってきた。
 麻琴は顔を雨と涙で濡らしながら、必死に走り続けた。
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