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あの店に彼がいるそうです
第9章 俺は戦力外ですか

「おはようございます」

 自動ドアが開く。
 開店前の国民的ファミリーレストラン。
 二十四時間営業枠にまだ入っていない店舗。
 看板の光は消え、車も殆ど無い明け方。
 だからこそ、秋倉は選んだ。
 黒背広に黄色いストライプのネクタイを極めてきた相手を見て立ち上がる。
 だが男はそれを手で制した。
「お会いするのは初めてですか」
 後ろに控えた不機嫌そうな若い男が鞄を受け取ると、彼は向かいの椅子に腰かけた。
 優雅な動作で。
 無駄なく。
「ああ。そうだな」
「汐野、それをお渡ししろ」
 呼ばれたさっきの男がテーブルに鞄を置いて、パチンと金具を外す。
 開いた中身のうち、数枚の書類を秋倉に渡す。
 その指先の爪が黄色く塗られているのが目についた。
 目の前に座る男のネクタイの色と同じ色。
「鵜亥はん、一服してもええですか」
「あとにしろ」
「別にかまわないが」
「いえ。いいんですよ秋倉さん。禁煙の練習には丁度良い程度に思っていただければ」
 適わんわ、と小さく呟いて汐野は隣のテーブルに落ち着いた。
 白いよれよれのシャツにグレイの上下。
 短髪はワックスで立てられ、耳には銀のピアスが並ぶ。
 そんないかにも裏の臭いを漂わせる汐野と異なり、鵜亥という男はまるで企業の重役のような穏やかで厳かな空気を纏っていた。
 染めた気配の無い黒髪。
 額のところで分けた前髪。
 綺麗な耳に、薄いブラウンがかったメガネ。
 袖から覗く時計は百万前後。
 見栄を張ったりはしていない。
 信用できる。
 そう思わされる容姿。
 部下に対してと客に対しての完璧な態度の使い分け。
「さて。世間話は嫌いだそうですので、早速本題に入りましょうか。我々堺の者どもが新宿に進出してきた訳を。そして貴方様がどのような協力をお求めなのかを」
 丁寧にして威圧的な口調。
 秋倉は眉間に皺を寄せて息を吐いた。
 苦手だ。
 苦手なタイプの人種だ。
 だが、明らかに自分より上手だ。
 そう悟って。
 煙草が吸いたい。
 そう訴える指を抑えて。
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