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あの店に彼がいるそうです
第9章 俺は戦力外ですか

 灰皿を近くのテーブルから持ってきて差し出す。
「火はちゃんと消さないと、ボヤになりますよ」
「……嫌味な奴だよ」
 あの火事を知っておいて。
 潰した吸い殻は暫く燻って動かなくなった。
 二人ともそれを見届けてから外に出る。
「そういえば、今は何人いるんです」
「なにがだ」
「商品」
 明け方の涼しい風の中でする会話ではない。
 遠くで鳥が囀る。
「蜜壺以外にも店は続けていたんじゃないんですか」
 よくわかっている。
「減ったよ。十人程度だ」
「この現代には多い方じゃないですか。未だに新宿に家出少年って来るんですか? 秋倉さん好みの年代なんて」
「上司を侮辱するのが本当に好きだな。勿論この街だけじゃない。今は関東甲信越で組織が手を結んでいる。行方不明者、変死者の数からしたら塵みたいなもんだろ。警察も迷宮入りで捜査打ち切りが関の山だ。値は張るが裕福な家庭で健康体の覚えの良いガキどもが来るからな」
 車が数台過ぎ去って行った。
 この朝早くに出勤か。
 ご苦労なことで。
 小木が煙草を咥える。
 火を点けようとして、思い直したのか花壇に落とした。
 靴で土の中に埋める。
「おい」
「うちの土地なんで。それにしても秋倉さん……変わりませんね、この国は」
「あ?」
「結局おれみたいな奴がのうのうと生きてられるんですから。爽やか兄さん演じて笑顔でファミレスのオーナーですよ。真面目な社員を従えて安定した収入を得て、食べログなんか書かれているんです。笑える」
 返す言葉が思いつかなかった。
 奔放に生きてきた割に重い言葉を吐く。
 犯罪者が裁かれない。
 それは一番犯罪者が痛感している。
 捕まりたくはない。
 当たり前だ。
 だが、捕まらないことへの空虚感は募る。
 なにをしているんだ、正義はと。

「くだんないな」
「くだんないですね」
 朝日を見つめて二人は黙った。
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