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あの店に彼がいるそうです
第9章 俺は戦力外ですか
 黙っていると、蓮花が物憂げに眼を細めた。
 なんだ。
 この眼は時に不安にさせる。
 赤い唇もだ。
 初めて意識したが、今日着ている艶やかな紫の上着のせいかもしれない。
「瑞希のことなんだけどね」
「そっちか。雅の件だと思ったが」
「まあ、おんなじじゃない?」
 頬杖をついて、少し上を向き考える。
「ああ……そうだな」
 蓮花はそれを聞いて大袈裟に身を乗り出す。
 微かにテーブルが軋んだのが気になった。
「あたしが借金返済に全面協力したら、雅に殺されちゃうかしら」
「借金返済だけならともかく雅の元から瑞希を攫いでもしたら殺されるんじゃないか」
「あー。確かにそうね。じゃあ、春哉の立場はどうする」
「俺の立場?」
「瑞希が辞めた時の雅のこと」
 ガタン。
 落としたカップを見下ろして、蓮花が控えめに謝る。
 春哉は口を押えてただそれを一瞥した。
「あら。核心を突かれたって顔ね」
「前から考えていたことだ。今更」
「でも前から考えていた問題の割に解決案がないみたいじゃない? 私を瑞希に付かせたのだって、一種の安全装置のようなものでしょ? 瑞希に他の固定客が付かないように裏で手も回してさ。少しでも長く雅のそばにあの子を置いておきたいから。だから」
「黙んないとあいつを呼ぶぞ」
 氷の声で言い放った春哉をまっすぐ見つめ返す。
「私ね、瑞希のことが気に入ってるの。春哉に頼まれる前からチェックしてたくらいよ。だからあの雅にこのまま取られるのはどうしても嫌なのよね」
「瑞希には溺愛している彼女がいるぞ」
「西河南でしょ。なにが溺愛よ。雅に簡単に揺らいじゃって。鏡子の診療所で声かけただけで真っ赤になってたのよ」
 バチバチと。
 なにかが爆ぜている。
 テーブルの上で。
 空中で。
 幼少期からこうだった。
 蓮花と話すときには、必ずぶつかる。
「なにが言いたい」
「ねえ。今シエラの危機って自覚ある? それもあんな初心な青年一人の所為でさ」
「それはお前に言われるまでもなくずっと悩んでる」
「悩んでる? 悩んでる、ね。あはははっ、おかしい」
「ちなみにお前はもう知っていると思うが」
「秋倉が最近また動いてるわね」
「あとこれ」
 パサリと先日のファイルを差し出す。
 それを手に取った蓮花が目を泳がせた。
「こ……れ」
「今度は俺が相談する番だが。堺に住んでたよな。蓮花」
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