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あの店に彼がいるそうです
第3章 体を売るなら僕に売れ
車に乗る。
もう車内の香りには慣れた。
類沢からも同じ匂いがするし。
シートベルトを引く。
「痛みは?」
「え?」
トンと自分の鎖骨を叩く。
「傷だよ」
「ああ。大丈夫ですよ、ほ……」
ほら、と触った瞬間激痛が走った。
体を曲げて堪える背中をさする。
「……バカなの?」
「痛い、ん、ですよっ」
だが、否定できない。
バカだ。
まだかさぶたにもなってない。
皮膚が焼けるって大変なことなんだな。
発進する。
真夜中の歌舞伎町。
テーマパークかってくらいに明るい。
まだまだ眠らない。
「類沢さん、アフターはないん」
「断ったに決まってるだろう」
絶句してしまう。
え、いいのか、と。
ハンドルを切りながら、類沢は続ける。
「客より仲間が大事だからね」
うわ。
惚れそうになった。
俺は顔を押さえる。
「ナニしてんの」
「いや……カッコイいなって」
類沢は口の端だけで笑った。
三十分くらいか。
小さな診療所に着いた。
訂正する。
見かけは全く診療所じゃない。
大学生が借りそうなアパート。
小さなアパート。
「ここ……ですか」
コートを引き寄せ、尋ねる。
「そうだよ。シエラお抱えの闇医者ってところかな。栗鷹診療所」
「へぇ……」
玄関を開けて、目を見開いた。
廊下には担架や医療器具が整然と並んでいる。
パタンとドアが閉まる。
靴を脱ぎ、二人は一番近くの扉の中に入った。
「ドクター、いる?」
奥から足音がやってくる。
「……その声は雅だな」
さっき確認した。
栗鷹悠。
三十後半位の男。
細い。
「今来客中だよ」
「患者?」
「いや……家内の友人だ」
類沢が顔をしかめる。
その頬に美しい指がかかる。
突然背後に現れた女性。
バッと振り返る。
指の主が爪を噛みながら悪戯っぽく笑う。
「やだわ。そんなに警戒しちゃって。固いわよ、み・や・び」
「酔ってますね、鏡子さん」
えへへと首を傾ける。
悠の妻だ。
若い。
長い黒髪を弄りながら、俺を見つけて近づく。
「ん~、この可愛い子はだれ?」
「新入りです。怪我をしましてね」
鏡子があっと口を開いて、類沢を流し見る。
「ちゃんと守んなきゃダメじゃん。新入りは苛められるのよ」
凄い。
類沢が圧されている。
もう車内の香りには慣れた。
類沢からも同じ匂いがするし。
シートベルトを引く。
「痛みは?」
「え?」
トンと自分の鎖骨を叩く。
「傷だよ」
「ああ。大丈夫ですよ、ほ……」
ほら、と触った瞬間激痛が走った。
体を曲げて堪える背中をさする。
「……バカなの?」
「痛い、ん、ですよっ」
だが、否定できない。
バカだ。
まだかさぶたにもなってない。
皮膚が焼けるって大変なことなんだな。
発進する。
真夜中の歌舞伎町。
テーマパークかってくらいに明るい。
まだまだ眠らない。
「類沢さん、アフターはないん」
「断ったに決まってるだろう」
絶句してしまう。
え、いいのか、と。
ハンドルを切りながら、類沢は続ける。
「客より仲間が大事だからね」
うわ。
惚れそうになった。
俺は顔を押さえる。
「ナニしてんの」
「いや……カッコイいなって」
類沢は口の端だけで笑った。
三十分くらいか。
小さな診療所に着いた。
訂正する。
見かけは全く診療所じゃない。
大学生が借りそうなアパート。
小さなアパート。
「ここ……ですか」
コートを引き寄せ、尋ねる。
「そうだよ。シエラお抱えの闇医者ってところかな。栗鷹診療所」
「へぇ……」
玄関を開けて、目を見開いた。
廊下には担架や医療器具が整然と並んでいる。
パタンとドアが閉まる。
靴を脱ぎ、二人は一番近くの扉の中に入った。
「ドクター、いる?」
奥から足音がやってくる。
「……その声は雅だな」
さっき確認した。
栗鷹悠。
三十後半位の男。
細い。
「今来客中だよ」
「患者?」
「いや……家内の友人だ」
類沢が顔をしかめる。
その頬に美しい指がかかる。
突然背後に現れた女性。
バッと振り返る。
指の主が爪を噛みながら悪戯っぽく笑う。
「やだわ。そんなに警戒しちゃって。固いわよ、み・や・び」
「酔ってますね、鏡子さん」
えへへと首を傾ける。
悠の妻だ。
若い。
長い黒髪を弄りながら、俺を見つけて近づく。
「ん~、この可愛い子はだれ?」
「新入りです。怪我をしましてね」
鏡子があっと口を開いて、類沢を流し見る。
「ちゃんと守んなきゃダメじゃん。新入りは苛められるのよ」
凄い。
類沢が圧されている。