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泡のように
第38章 37.
「もう、行っちゃった!絶対待っててくださいって言ったのに!アアアア!こんなところに放置して!誰かが持っていったらどうするつもりだったんだろう、山岸さん、これお兄さんがあなたに、こんな大事なもの私に預けるなんて、もう、5分くらい待ってくれたっていいのに!自分も卒業式がとか言って、そんなことなら山岸さんに直接、兄妹なら直接渡せばいいのに!」



 年若い彼女もまた、揺れているのだろう。
 手渡されたものに視線を落とす。
 大手銀行の預金通帳。
 名義は、八田智恵子。



「こんな大金が入った通帳を私に、智恵子に渡しといてくださいって、今まで申し訳なかったって、卒業祝いだって言って代わりに渡してくれって。こんな大事で、よくわからないことを他人の、ただあなたの担任ってだけの私に。ああ、もう、山岸さん!あなたにはつくづく悩まされた1年間だったわ!」




 無意識のうちに中身を覗いてしまったのは、彼女もまた、同じことだったのだろう。

 端数の揃っていない、数字の混雑する、7桁の。




「ひどいことして悪かったって。これで許してくれって。なんのことか私にはわからないわ。山岸さんあなたお兄さんにお金を貸してたの?・・・ああ!あそこ!まだあそこ歩いてる!追いかけて、ほら、山岸さん、お兄さんに何か言わなくていいの?何か言うことないの?なんかあるんでしょ?お兄さんとなにかあったんでしょ?だからお兄さんはあんな、私たちと同じような礼服着なきゃいけない日だったのに、わざわざ山岸さんに会いに来たんでしょ?ほら、まだ間に合う!」




 3、ではじまる、不規則な数字が並んだ、7桁の。





「早く、早く行ってあげて!どっちみち通帳だけじゃお金は下ろせないから!通帳渡すなら印鑑とキャッシュカードも一緒にちょうだいって、ほら、お兄さんに伝えなきゃ!だから早く!山岸さん早く!お兄さんが行っちゃうわよ!」




 お兄ちゃんの、揺れ。



 
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