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泡のように
第3章 2.
 帰宅したのは22時過ぎだった。
 生まれた時から住んでいる公団の12棟3階303号室の重い鉄製ドアを開けると中は灯油ストーブの匂いが充満していた。
 帰りに公園の水道で穿いたまま洗ったプリーツスカートの裾から水が滴り落ちて板間の廊下を濡らす。震えながら洗面所に直行し今朝脱いで置いといたスウェットに履き替え、それからガラス戸を引いて帰宅の挨拶をした。

 本棚に囲まれた汚い台所のテーブルで書き物をしていた男は私の声で顔を上げた。
 厳しい眼光が黒渕眼鏡の分厚いレンズ越しに私に向かう。

「遅すぎるぞ」

 皺の目立ちはじめた口元は髭剃り跡が青い。
 本来私が“お父さん”と呼ぶべき存在のおっさんの言葉を無視して、濡れたプリーツスカートを石油ストーブの上の物干しに引っ掛けた。

「ねぇお母さぁん」

 おなかすいたぁなんかつくってぇ、いま一番甘えたい背中は部屋中どこを見渡しても見当たらない。

「あれ?お母さんは?」

 おっさんはワイルドでハードボイルドな中年を目指しているらしく白髪混じりのオールバック頭をワイルドぶった仕草で手で鋤きながら、呆れた顔をしていた。

「出張だって言ってたろ。それより智恵子、その制服どうしたんだ」

 水滴がまたひとつポタリ。畳が濡れた。

「転んじゃった」
「雨でもないのになんで濡れてるんだ」
「べつにどうだっていいじゃん」

 踵を返して自室に向かおうとしたところ、かさついた掌に右手首を掴まれ阻止された。

「待ちなさい」

 髪と同じ、白髪混じりの太い眉毛に厳しく皺を寄せ、昔は男前だったんだろうな今は違うけど的なぱっちりした二重瞼で私を睨んでいる。
 お父さんは心配性。というか、

「どうせまた、男に会ってきたんだろ」

 粘着性?みたいな。

「ちょっと見せてみろ」

 やめてぇ離してぇ、なーんて、私の抵抗は思いのほかティーンエイジャーらしく汐らしい。
 抵抗虚しくされるがままスウェットごと下着を引きずり下ろすと、何の遠慮もなくおっさんは割れ目に指を差し込んできた。
 ただでさえ擦りきれてパンパンに腫れた場所に乾いた指だ。
 痛みに思わず声を上げた。

「やっぱり」
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