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第25章 怒　IKARI

　実際、妻をこの家にかくまったときは、彼女の両親に雇われた暴力的な男たちと対峙することもあった。しかし私は一歩も引かない態度で挑み、そしてそこに恐怖を感じることはなかった。つまり、心の強さによる恐怖の克服が可能だということは、今も疑うことはない。


　だが今回は逆に、圧倒的な怒り・悲しみ・憎しみ。そういった感情の奔流をまともに浴びせかけられることによって、心底震えてしまうほどに恐怖した。
　心で克服しうる恐怖。それは逆に心によって呼び起こされもするということが、今日証明されてしまったのだ。

　華奢で、体重も大したことのない女子の拳。もちろんそれはまともに喰らえばただでは済まないダメージを受けはするが、しかし肉体的な力の差は歴然としているのだから、こちらも力で対抗すればそれは容易に防げたはずである。

　にも関わらず、全身から沸き上がる華の感情によって叩きのめされることで、私は恐怖に支配されて抵抗する心を握りつぶされてしまった。