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§ 龍王の巫女姫 §
第2章 峭椋村の巫女姫

いよいよ彼女は困り果てた。

…銭など持ち歩いていない。

「ですが、食べて良いとあなたがわたしに…」

言葉をそのまま鵜呑みにしてしまった。


「確かに言ったさ。まさか俺が、道行く人間にただで饅頭ふるまってると思ってんのか?そんなんじゃあ俺の商売はあっという間にダメになっちまう!」

「そんな…っ」

「お代はもらう。さっさと出しな!」


いまの今まで優しかった店主が、あっという間に怒れる大熊へと変貌した。

しかし大熊の言うことは正当であるから何も言い返せない。

彼女にできるのは謝ることだけだった。


「お許しを…っ、遅らせて必ずやお代はお持ちします。今は何も持っていないのです」

「そんな嘘を信じるほどな…商人はお人好しじゃないぜ。食い逃げは泥棒だ、泥棒は…」

「──…ひっ」


大男が女の肩を鷲掴む。


その拍子にずれ落ちそうになった笠を彼女は慌てておさえた。


「泥棒さんは手を切り落とすんだぜ…?」


「…や…や…ッ」


脅しか本気か…男の言葉に怯える彼女を、笠布の隙間から目で威嚇した。


騒ぎに気付いた街の者たちもとくに止める様子はない。こんなやりとりは日常的な光景なのだろう…。



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