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§ 龍王の巫女姫 §
第11章 残酷な好機

僅かに残っていた復讐心も、燭台を捨てると同時にあとかたもなく消え失せた気がした。

「…村の人間を殺したのは俺の部下ではない」

「え…!?」

普段の張りを取り戻した声で、炎嗣が切り出す。


「衛兵等とともに村に入った時には、既にそこは火と血の海──生き残っている者はいなかった」

「…そんな…」


水鈴は耳を疑った。──村のみんなを殺したのは彼ではない?


「いまさらその様に告げられても…っ」

もちろん狼狽えた……だが、彼の言っている事はでまかせではないと直感した。

嘘をついている顔ではなかった。



「なら…どうして…もっと早くに教えてくれなかったのですか…!?」


最初にそう告げられていれば、炎嗣を殺そうなどとは考えなかった。


「復讐を果たしたければあなたを殺せと言ったのは何故です!? わたしをそそのかしたのは何故です!?…あなたは何もしていなかったのに!」


「…お前が死のうとしていたからだ」


「……っ」


炎嗣は約束通り、彼女の涙を拭いながら話す。



「全てに絶望したお前は、いつ死を選ぼうともおかしくなかった…。俺が与えたのは " 憎しみ "という生きる糧だ」



怨敵となる事で…
復讐の矛先となる事で…

彼女の目を、現実から背けさせる。

たったひとりで生き残ってしまった現実は、憐れなこの娘を絶望という底無し沼に引きずり込んでいたからだった。



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