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§ 龍王の巫女姫 §
第4章 狂気

下駄を履かぬ彼女からは、いつもの可愛らしい足音は聞こえなかった。

その代わり、森の山道を踏みしめる小さな足があった。土で汚れて枝で切り傷をつけ…それでも走るのをやめぬ足があった。


いっそう強まる風が木々のざわめきを通り越し、森の唸りへと変えてしまう。


月の光が遮断された闇の森──。


こんな暗い森にひとりで入るのは初めてだった。




「…怖い…ッッ…怖い──」


けれど彼女は、別の何かに怯えていた。


それは胸の奥から…
頭の中から…
彼女を突き動かしてきた。


幼い子供のごとく水鈴は怯えていた。







パチッ、パキ . . . .... パキパキ...ッ




何か物が割れるような、弾けるような

…不気味な音だ


それが彼方から聞こえてくる。



前方が明るくなり、森を抜けた水鈴は季節にそぐわぬ温かい風を肌に感じた。



そして、明かりの正体が彼女の目に映った時…



「…ハァ…ハァ……」



その光景を疑う。




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