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贄姫
第1章 壱


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吐き気に襲われて
椿がとっさに目を開けると
目の前の視界がぐにゃり、と歪んでいた。


「っ……‼︎」


数回目をしばたかせて、
それが現実に歪んでいるのだと気づくまでに
たっぷりと時間を要した。


「周、あまねっ!」


恐怖に、信頼できる彼の名を呼ぶ。


「周ってば! ねぇ、応えて!」


椿の叫びに応えて
周の式神がふと視界に入った瞬間、掻き消された。


「なに、これ…!」


耳には呪禁の嵐。
歪みを増す視界は、黒い渦と
白い渦がぐるぐると回っている。


吐き気がまたもや襲ってくる。
吐くまい、と気力で歯を食いしばる。


恐怖に歯の根が合わない。
縛りつけられた身体は鉛のように重く
自分自身を意識しなければ
とっくに気を失っていただろう。


「あ、まね…」


漏れるように呟くと
御簾がばちんと弾け飛んだ。


強い風が巻き起こり
部屋の障子が吹っ飛ぶ。


叫びさえあげられずに
悲痛に目を閉じた時
頭に手が置かれた。
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