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贄姫
第1章 壱


それは、つまり、椿たちにとっては良い知らせではないと同時に
妖たちにとっては素晴らしい朗報だと言うことだ。


さらに1体、式が吹き飛ぶ。


「周!」


どす黒い色の血が彼の口から流れ出た。
内蔵からの出血。
椿は周に触れようとして
自分を縛りつける縄をほどこうと躍起に動いた。


「動くな、大丈夫だ」


「絶対、大丈夫じゃない!」


うるさい黙れ!
周が珍しく怒声をあげた。


「召喚さえ、ままならないんだ」


上を見ろ、と言われるがままに上を見れば
半分吹き飛んだ屋根から外の景色が見えた。


どす黒い雲の塊の上から
金色の光がチラチラと見え隠れしている。
金色の光をこちらによこさないように
邪魔をする黒い雲は目を凝らして見れば
1つ1つが妖だ。
それが大量に集まり、黒い渦となって頭上を
旋回していた。


「……!」


椿は恐怖に声を失った。
かわりに目の端から意図していないのに
涙が溢れる。


「…あたし、あれに食べられちゃうの…?」


「それをさせないために、みんながいるんだ」


ふと気づけば
怪異たちの放つ腐臭とともに、
人間の血の臭いが混じっている。


式がもう1体吹き飛ぶと
周の血が椿の胸元に
どさりと音を立てて落ちた。


「いや、周っ!」


周は首に巻いていた大きな数珠を引きちぎって
その場に撒き散らした。
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