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贄姫
第1章 壱


「そのかわり、周を、助けて。
そうすれば…契約してあげるわ。
随分と美味しいらしいあたしの魂をあげる」


「俺に喧嘩腰で物を言いつけるとは
相当いい度胸だな。
後で覚えてろよ?」


椿は恐怖に歯の根が合わなくなるのを
必死で押さえ込んで男を睨みつけた。


「いい度胸だ。お前のその顔たまらねぇな。
認めてやるよ。
恐怖の中でも意気込んで、俺に唾を吐きかけた人間はお前くらいだ」


だてに、小さい頃から妖たちをみてきたわけではない。
そんじょそこらの脅しに、椿は怯まない図太さがあった。


「あたしを死ぬまで護り通しなさい。契約をするわ」


「いいだろう。
それを保証しよう。
お前の身体と魂、死んだ時はお前の屍をいただこう」


「あと、周の命も助けて」


「は?」


「だから、周の命を救って…!」


その声に、周が微かに動いた。


「あの男がそんなに大切か?」


幼い時からずっと一緒にいた。
婚約者という偽りに隠された本当の守護者。
いなくなるなんて、椿には考えられない。


「兄弟みたいなものよ。
あんたみたいな血も涙もなさそうなやつにはわかんないでしょうけど…
ずっと一緒にいたの」


男はしばらく周と椿を交互に見やった。
まだ生きている周を見て
いい根性だ、とにたりと笑った。
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