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贄姫
第1章 壱


「英…椿、はなぶさ、つばきよ」


「やめろ!」


椿が本名を名乗るのと
周の叫びが重なった。


彼の怒声に、驚いた椿が息を飲むのと
男が彼女の呪縛を解くのが重なった。


急に拘束されていた呪が取れ
手足が自由になったと思った瞬間
男に抱き寄せられるように半身を起こされる。


「ばれたか、さすがだな、お前。だが、遅い」


男が舌なめずりしながら、
挑戦的な目で周を見やる。


「やめろっ!」


「我が名は、瓊乱(からん)」


「やめろ、椿、取り消せ!
そいつは守護者なんかじゃないっ!」


周の叫びに、椿の方がパニックになる。


「俺の命はどうでもいい!
今すぐ契約を破棄しろ!」


「周、何言って…
こうしなきゃ、あんた死んじゃうじゃん…!」


やめろ、という周の声は
今度こそ掠れて出ない。
口内も喉も、血の味にまみれて吐き気と寒気がした。


「今を持って、英椿との契約を実行する」


やめろ、そいつは…!


その周をよそに男は恐ろしく美しい顔でにんまりと笑う。


「そいつは、高等な妖じゃない!
ーーーー鬼だ!」


「我、これにて、英椿の契約者となる
ーーーー鬼だ」


2人の声が重なったが
椿が「え?」と口を動かした
次の瞬間。


生まれて初めての口づけを
牙の生えた美しい鬼に唐突に乱暴に奪われた。
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