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秘蜜に濡れて
第12章 曖昧な予感
トマトソースのパスタを食べながら嘉紀はゆっくりと語った。

「奈帆は…あの日は仕事の後に会う約束をしていたんだ、いつもの如く仕事が長引いて…遅れる電話を入れた」

あいりはその話をじっと聞き入った。

「事故だった、車に跳ねられて…打ち所が悪くて…その日のうちに持っていたドナーカードで移植が決まった、それが…君だ」

あの日零れた涙は、奈帆の瞳が見せた愛しい嘉紀に出会えた喜びの涙だったのだ。

「奈帆」

嘉紀はあいりの瞳に呼び掛ける。

「今も…そこに居るんだな…俺は、元気だよ、お前が居ないのは…辛い時もあるけれど、何とかやってるから心配しなくていい」

あいりの瞳が答える様に雫を落とす。

「会えて…良かった」

嘉紀は奈帆の両親に掛け合い、いつどこの病院で行われたのかを突き止めた。

あいりかどうかは確かではなかったけれど、あの日振り向いて自分の名前を呼んだのは確かにあいりではなく奈帆だった。
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