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秘蜜に濡れて
第7章 夢から醒めたら
エレベーターホールにあいりを座らせると、控え室に鞄を取りに戻った。

ガラス張りの窓から外を見つめるあいりは片目ずつ手で覆って、見え方を確認していた。

「眼、見えないの?病院行こうか?」

振り返ると、撥春は心配そうに手を握った。

「大丈夫です」

「また見えなくなったらどうするの?」

「…もうちゃんと見えてますから、体調で霞んだりなんて良くあるんです、本当に大丈夫ですから」

安心させようと、笑顔を作る。

「…帰ろうか」

腑に落ちない表情でテレビ局の地下からタクシーに乗った。

静かな車内で、撥春は流れる景色を見つめたままだ。

声を掛けられない雰囲気に、言い知れぬ不安が水に落とした絵の具の様に広がったいった。

握った手から伝わるぬくもりだけが、一筋の繋がりに感じた。


エレベーターの昇る音も、玄関のドアが閉まる音もいつも以上に響いている気がした。

「荷物置いたら座って?」

ソファーを指すと撥春はキッチンに消えていった。
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