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第8章 夜道
〜山崎side〜

そんなに待たされる事もなく、さくらさんはすぐに部屋から出てきてくれた。

「お待たせしました! すみません、よろしくお願いします。」

さくらさんは少しだけ上目遣いにこちらを見て、ぺこりと頭を下げた。

「行こう。もう夜も遅い」

なるべく平静を装い、屯所を出発した。

屯所から四季までの道のりは、人通りが少ない。
ほとんど人とすれ違う事はないはずだ。

「…。」

「…。」

2人の足音だけが響く。

「あの…」

「…え?」

「こんな夜遅くにすみません。」

「いや、かまわない。」

「…。」

あまり続かない会話も、いつもなら苦にはならないが、今日は違った。 隣に並んで歩いているだけで、さくらさんの息遣いをそばで感じるだけで、先程までの光景が脳裏に蘇ってしまう。

チラリとさくらさんの横顔を伺う。
夜風にあたり、頰の火照りもすっかり冷めたらしく、月明かりに照らされて、白く輝いているように見える。
うなじから少し垂れた後れ毛が夜風にふわふわとなびいている。

また脳裏に蘇りそうになり、慌てて目を逸らす。


「…あっ…!」

不意にさくらさんの声。

「…!どうした⁉︎」

慌てて振り返る。

「鼻緒が切れてしまって…」

見ると、確かにさくらさんの可愛らしい下駄の鼻緒が切れてしまっている。

「待っていてくれ。今直す」
「俺の肩につかまっていてくれ。」

「は…はい」

さくらさんはよろけながらも、遠慮がちに俺の肩にそっと手を置く。

「もっと強く掴んで、体重もかけて大丈夫だ。」

「はい。すみません」

さくらさんと触れ合った肩が熱く感じる。
山崎はさくらの足元にしゃがみ込み、鼻緒を直し始めた。
テキパキと器用に直していく。
ふと目を上げると、白い小さな足が見える。小さな爪は桜貝のようだった。

「…。」

また頭の中に先程の2人の行為が過ぎりそうになり、慌てて作業を終わらせた。

「出来た。足を入れてみてくれ。」

「はい」

そっと足が下駄に降ろされ、キチンと履くことができた。
ホッとして、立ち上がる。

「山崎さん、ありが…」

ちょうど立ち上がった俺のと、少し俯いてお礼を言うさくらさんの唇とが、ぶつかってしまった。
決してわざとではない。
わざとでは…ない。
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