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第8章 夜道

「…あっ」

頰を真っ赤に染めて驚いてぱっと離れるさくらさんの唇を再び塞ぐ。

「…っ!」

柔らかい。
暖かい。
さくらさんは、なんだかいい匂いがする。
何度か唇を唇で挟むように口付ける。

さくらさんの背中に手を這わせ、ぎゅっと抱きしめる。
力を込めたら折れてしまいそうなくらい華奢な身体だ。


ずっとこうしたかった。
ずっと…


月明かりに照らされた夜道に、2つあったはずの影が、今はひとつしかない。

さくらさんの首筋に顔を埋め、ちゅっと唇をつけてみる。

「山崎さん…っ、山崎さん…!」

ハッと我に返り、さくらさんの二の腕を掴み、慌てて身体を離す。

「…っっっ‼︎」
「すっ…すまない…‼︎」
「忘れてくれ…っ‼︎」

顔を真っ赤にさせ、慌ててしどろもどろになって言うと、さくらさんは真っ赤に染めた頰を俯かせてしまう。
チラリと見ると、肩が少し震えているように見えた。

「足はもう大丈夫だろうか。行こう。」

慌てて先に立って歩き出す。
さくらさんは先程よりも少しだけ離れて、静かに後をついてくる。

「…。」

「…。」


2人が愛し合っているところを見てしまったからだろうか。
なんということをしてしまったんだ。

思わず
気の迷い
魔が差して

自分でも気付かぬうちに身体が動いてしまっていた。
さくらさんは、もう以前のように普通には接してくれないだろう。
副長とも…何か後ろめたさがある。



顔を俯かせた男女が、少し間を空けて静かに夜道を進んでいく。
いつもはあっという間に着いてしまう道のりだったが、今日はやけに長く感じた。


ようやく四季まで辿り着き、振り返る。
さくらさんも足を止め、遠慮がちに視線を向けてくる。

「…送ってくださって、ありがとうございました。」

「あぁ、かまわない。」

「あの…」

何か言っておこうと口を開きかけた時、

「それじやあ、おやすみなさい」

さくらさんは、慌てて四季の中へと入ってしまった。

…分かっていたことだ。
さくらさんは副長のもの…。

山崎は踵を返し、暗い夜道を歩き出した。
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