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初花
第4章 猫柳
数年来私に仕える 上女中の貴子が
半刻程前に 離れを訪ねると

蝋梅の 薫りが漂い始める
冷たい空の下、

龍は 雲の流れを眺めつつ
立って居たらしい。





_ 殆どの夜を離れで過ごす様に成る前から、
上女中と主に良くある類の
隠微な馴れ合いは 全く無いが


学に秀でた兄の書物を 片端から読み、そのうえ
秘かに彼を真似て
庭で 竹刀を振る事も有ったという彼女の
凛とした心根には 信を置いて居る_




彼女は、悪しく云えば《男妾》である龍を
蔑む事もなく
寧ろ 細々と気に掛けて遣って居る


彼が 沈んで居ると見れば
酷い仕打をしては居ないか 私を問い質し
(其の様な振る舞いをする者は 彼女以外に無い)


風邪に寝付いたと告げた際には
言付けて置いた薬湯に加え
甘く仕立てられた葛なども 揃えていたし



彼の為 白い毛皮を見繕う際にも
手伝ってくれた。
その時 私は 貴子に、募る弱音を吐いた






“喪恋” 流行りの絵師が描いた美人絵が
恐らくは龍を模した物であろうことと

離れへ連れて来る前、当の絵師と思われる男と
龍が 笑みを交わしつつ歩く姿を
偶然見掛けて居た事を 明かしたのだ






貴子は自ら 件の絵を手に入れると
実際余りにも 生き写しの風情に驚き、
其れを今日 彼に見せたと 私に告げた…




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