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初花
第6章 肩越しの 月
黙ったまま 龍の高く結った髪を撫でつつ
動かないで居ると

「美しい月。 殿の肩越しに 観る空は
なにゆえこれほどに美しいのかと
ときおり不思議に思います」 呟いた龍、、




私は 応える言葉を探しあぐね
先より更に深くくちづけ 再び抱き締めた









己の掌に 彼の肩を包み
時には視線を交わしつつ 歩けば

龍のくちびるは 弓なりの時の月の様に
微笑を浮かべるのであろう







そうして そぞろ歩き、水面の月を眺めた後
帰り着けば


夜具の上、 私の肩越しの満月を
ちいさく美しい鬼が 観るだろう









有りの儘 鬼の如き私を
受け容れて啼く彼を、脳裡に浮かべていると


先程のくちづけに 常より紅い唇をした龍が
つと背伸びし、私の首を引き寄せて


「今宵の月も 観せて戴きたく」と 囁いた





…肩越しに、と 言わぬ処が
心憎く 愛い





「、、月が動いても 離さぬ」





そう告げた私を 見上げた龍の
艶を刷いた華やかな眼差しを染めるのは

恋慕、そして 愛の様な。




この世に生きる限り、他に願う物は 無い。
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