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初花
第6章 肩越しの 月
珊瑚は七宝のひとつ。

紅のものは 身体を強く保ち
邪眼による災いや悪魔や怨霊を防ぐと云う






これを贈ったとき 私自身にさえ
まだかたちとしては掴めていなかった恋心を
龍が 知るはずもなく、



己の身柄への手付けの様に贈られた装飾品を
身に付ける気にはなれぬまま
此処へ持参したらしい



私としては、色なり造りなり
彼の好む物ではなかったのであろうと思って居た








それを何故 今、身に付けるかと問えば。






「わたしを抱いておられるとき、
殿の腕は この手では解けぬほどに
力に充ちて 堅いのですけれど。

決して 傷付けられたことはなく
それどころか、、」






龍は言葉を捜す様に 幾度か瞬いて


「貴子さまが教えてくれたのです、
紅珊瑚は お守りにつかうものだと。。」



繋がりはない言葉を 紡いで、微笑んだ。










「想いを告げる事もなく
契りを請うでもなく
その様な物を贈っただけで

鳥籠に閉じ込める様に
其方を手に入れた事、悔いて居る

… 許して呉れるか」







他者に 許しを求める事は
屈辱である筈と 思っていたが




涼やかに明るい月の光を浴び頷いて
私を許す龍、その髪にくちづけながら

かつてないほどに 心が凪いでゆく









愛とは 形なく儚い

けれど 他に願う物は 無いほど、尊い


薄い身体を 月光の下に抱いて
その様な事を思い知る。
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