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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
 
ん? と、圭司は首をかしげた。
自分と早苗との間に、見過ごせない取りこぼしが過去にあったのではないか、という気がかりが芽ぐんだ。

――――(いまさら、何を……)

確かになりかけた気持ちを打ち消すように、圭司はパンッとヒザを叩いて立ち上がった。

『車 片づけてくる。
 浩ちゃんにメールしとくよ。
 心配してるだろうから』

出入り口に停めたままのワゴンをガレージの奥へ移動させたあと、《大トラ確保!心配無用》とだけ渡瀬に送信し、詳細はあえてふせた。
渡瀬の気を揉ませたくないのはもちろんのこと、帰り道に早苗がこぼした言葉の意味を考えると、渡瀬の愛情が今の早苗に不都合をもたらすような気がして、できることなら頬の腫れがひくまで、渡瀬と早苗は顔を合わせないほうがいいだろうと思った。

ワゴンをおりると、倉庫の裏の草むらからカサコソと音がして、小さく四つ、ビー玉ほどの光が圭司の足元に近づいてミャァと鳴いた。
二匹の黒猫が圭司にまとわりつき、『何かくれ』とジーンズの裾に背をこすりつけて甘えてくる。

『なんだ、今日はもらってないのか?』

渡瀬と麻衣がときどき残飯を与えるようになって、倉庫の裏に住みつくようになり、それぞれに「ドン」「ノウ」と渡瀬が名づけたが、おなじ体格の二匹は、名付け親にもどちらか見分けがつかないほどよく似ているのだった。
そっとまたいで離れようとする圭司に、ドンとノウは、またぎ降ろした足へすり寄っては体をこすりつけた。

『なぁ、あとで持ってきてやるから。
 中でデカいメス猫が伸びててさ』

あとであとで、と圭司は二匹を踏みつけないように気をつかい、そっと鉄扉を閉めた。

リビングに早苗の姿はなく、バスルームのあかりが洗面所からもれていた。

『おぉい、長湯するなよぉ』

早苗の安否を確かめるように圭司は大きな声を出した。
『はぁい』と、かすれた低い声で返事がして、バスルームのドアが閉まる音が聞こえた。


 
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