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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
 
ほどなくしてシャワーの音が聞こえ、圭司は、どさり、とソファに身をあずけて短く息をついた。
頭のうしろで手のひらを重ね、薄暗い屋根裏を見上げるうち、安助の言った「ひとり相撲」という言葉が圭司の頭の中をめぐりはじめた。

圭司は無力感でいっぱいになった。
ひとり相撲とは、なんとさみしい言葉だろう。
戦う相手すらいない孤独や疎外感を、安助は早苗に見ていたのだ。
道ばたの植え込みで早苗が苦しそうに吐いていた姿が、彼女が抱えている苦しみそのもののように思えてくる。

――――(何かしてやれることはないだろうか)

何もしてやれなければ、赤の他人どうしがひとつ屋根の下に暮らす意味などない。

 あたし、
 どこに行けばいいのか、
 判らないの。

車の中で早苗はそう言った。
距離がつまり、今夜早苗は不倫男を受け入れたのだろう。
それなのにあの男はなぜ、頬が腫れるほどぶったのだろう。
そもそも早苗はどこにたどり着こうとしているのだろう……。

ソファのひじ掛けに頭を置いて横になり、屋根裏を支える鉄骨を見つめながら、早苗の言葉を心の中で何度も繰り返すうち、だるい眠気が圭司のまぶたを押さえた。
玩具サンプルの撮影で一睡もしていなかったことと、昼前の情交の疲れが睡魔と化して、圭司の意識をかじりはじめていた。

『どこに行けばいいのか、
 わからない、か……。
 どこだろう……』

強い眠気に逆らいきれずに目を閉じると、出会った頃の早苗が圭司の脳裏に浮かんだ。
八月のひまわりのような笑顔を潤沢にたたえ、色香を放ちつつも、教養と無知が同居するどこか抜けた可愛げがあって、美人のわりに取り澄ますことのない大らかな振るまいに、圭司は失恋の痛手をいやされたものだった。
あけすけで、よこがみ破りな性質が男所帯にすぐなじみ、大きな仲たがいもなく、三人でここまでうまくやってきた。

―――――(あぁ、三人だったなぁ。麻衣はいなかった)

ようやく圭司は、早苗の気持ちをくむことができた。

¨どこに行けばいいのか、わからない¨

『俺ンとこか……』

そう考えみて、すべてのつじつまが合うことに気づいた圭司は、やがてソファに飲み込まれるように眠りの中へ埋没していった。


 
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