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星と僕たちのあいだに
第6章 猫
 
酔った頭をふらつかせながらどうにか髪を洗い終えた早苗は、体にまとわりついた河村の残滓(ざんし)を熱めのシャワーで入念に洗い流した。
脱衣場へ出ようとしていつもの場所にバスマットが見当たらず、仕方なくつま先立ちでバスルームを出、手早く体をふいたあと、替えの下着やパジャマを用意していなかったことに舌打ちした。
タオルボックスにストックしてあった丈の短い新品のバスローブをひっぱり出して、素肌に羽織った。

マウスウォッシュをしてリビングへ戻ると、ソファで横になった圭司がすっかり眠りに落ちている。

『けいちゃん、風邪ひいちゃうよ』

圭司の眠りは深く、少し揺すってみたが目覚める気配はない。

早苗は顔を近づけて、心地良さそうに寝息をたてる圭司の寝顔をじっと見つめた。
男性にしてはしっとりと睫毛(まつげ)が長く、頬からアゴに向かってすべすべした肌がピンと張っていて、下アゴにまばらに生えた柔らかそうな無精ひげが、女性的な圭司の顔立ちをどうにか精悍なものにしている。

無防備な圭司の寝顔を見ているうちに、早苗は胸元が苦しくなった。

―――――(どうしてくれるのよ)

バスローブの袖をまくって、圭司を起こさないようにそっと指先で無精ひげをなぞった。
柔らかなひげが早苗の指先をながれてゆく。
下あごの突端から耳の下までいくと、こんどは逆向きに撫でた。
愛情をたたえた指先で圭司に触れるうち、もう少し、もう少しと気持ちがあとを引いて、いつしか早苗はつつましい喜びと物足らなさを感じながら、自分の指に圭司をねだっていた。

―――――(頭がおかしくなっちゃうよ……)

風呂あがりのせいだけではない潤いが、早苗の手のひらに湿りはじめた。
ひとしきり圭司に触れた指先を自分のくちびるに強く押しあてて、チュッと吸ってみる。
たったそれだけのことで泣きだしたくなるほどの愛しさがこみあげてくる。

ドクン、と、うずくものが早苗の体をふるわせた。
酔いは、早苗を女として純化させていた。



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