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星と僕たちのあいだに
第8章 セレンディピティー
 
直樹が自分のことを好いていてくれて、父親を困らせるほど会いたがってくれているのも麻衣には嬉しかった。
じだんだを踏んで抱いてくれと求めた、やせっぽちのがんばり屋。
服の背中をキュッとつかんだ直樹の小さな手を思い出して、麻衣の頬がゆるんだ。
ひと寝入りしたら夕飯の支度をするまえに返事をしたためようと決め、手紙はきれいにたたんで封筒にしまった。

シャワーを終えた麻衣は、ネット通販でこっそり手に入れた艶めかしい下着をつけた。
圭司が帰れば、食事の前にいきなり欲しがられるかもしれない。
その期待からくる準備である。

小屋へ戻り姿見の前でうしろ向きになって、ちょっとお尻を突き出してみた。
天女の羽衣のような透け透けの薄い生地に、レースをフリフリとあしらってある。

――――(こういうの喜んでくれるのかなぁ)

多分に扇情的で小さな下着は、豊かな尻の肉をほとんど隠せていない。

――――(お尻が大きいわけじゃないわ。サイズが小さいのよ)

そう言いきかせて、いそいそと膝丈のキャミソールをかぶった。
つま先でくるりと回転してベッドへ倒れこむ。
顔をうずめた枕に圭司の匂いがした。

――――(むふっ、いい匂い)

吸いこむほどにまぶたが下がり、胸の内をフラミンゴ色のやわらかな泡が満たしていく。
それは優しい調子で、お腹の下のほうからしみじみと湧いてくる。

『いやんっ、もう!』

麻衣は、胸いっぱいの多幸感を抑えきれなくなって、きゃっきゃと奇声をあげながらベッドの上で手足をばたつかせた。
ひとしきり暴れたあと、

『大好き』

つぶやいて、枕にキスした。

¨篠原麻衣の存在価値¨を教えてくれる圭司が大好きだ、と麻衣は思う。
不妊の事実にふてくされ、ふさぎこみ、泣いてばかりいた。
自分は女性として無価値だと思ったことがあった。
でも、そんな私を圭司はかわいがり、料理をほめてくれ、肉体をこよなく愛してくれる。
豊潤な愛情で私の価値を高めてくれたおかげで、私は自分を好きだと思えるようになった。
自分を大事にしなければいけないと思えるようになった。

――――(あの人の大事な、私なんだから)

あお向けに枕を抱いて、麻衣は『うん』とうなずいた。


 
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