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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ

渡瀬から返信が来た。

《いい風景だなぁ。ありがとう。
 元気出るよ。
 退院したらまた焼肉やろう》

青白く面やつれした渡瀬が、笑顔で親指を立てている画像が添付されていた。
顔色こそ冴えないものの少しずつ体力を取り戻しているようで、目元に柔らかみが感じられた。

《夕方、パジャマの替え持っていきま~す》

と返信し、これも授かったお役目のひとつだわ、と麻衣はひとり微笑んだ。

果たすべき役目が浩ちゃんにはあるんだろうな――――
はからずも心おだやかになったという、医師とのやりとりを後日圭司に聞かされたとき、その解釈が麻衣の心に沁みた。
理にかなうこともそうでないことも、絶望すらいっぺんに受諾できたと、圭司は言っていた。

使命を感じて役割を果たすこと。
そこに喜びを見出すことができれば、揺るぎない何ものかを自分の中に築けるような気がする。
つかんだ役割そのものが人の価値だと、医師はそんなふうに圭司を勇気づけようとしたのだろう。

そこからいくと、つまらない愚痴をこぼし、ねたみに執心し、それについて悩んだり哀しんだりしていた過去の私は、そういった価値からどんどん遠ざかっていたに違いない。

――――(私、嫌なオンナだったんだろうなぁ……)

よるべない不安の中で過ごした日々がよみがえる。
への字に口を結んで、麻衣は空を見上げた。

以前に交際していた男に見限られたのは、不妊によるものだけではないような気がする。
不妊の事実は決定的な理由ではあるが、おそらくそれ以外の、私自身が持つ暗愁(あんしゅう)にあの人は受け入れがたいものを感じていたのだろう。

確かに打算に長けた男ではあったと思う。
だがそれにもまして、私という人間が不鮮明だったのだ。
すっきりしていなかった。
あの頃の私は、他人を幸せにできる人間ではなかったように思う。

時間をかけて愛情を育てるのと同じように、時間をかけて愛情を失う。
いつしか私は愛されない女になってしまったのだろう。
それが、今になってほんの少し理解できる……。


 
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