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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 


仏壇にまつった写真たてに手を合わせ、滝沢は、三年前の出来事を思い起こしていた。

忘れようにも頭にこびりついてはがすことができない、思い出と呼ぶにふさわしくない記憶とともに、この三年を過ごしてきた。
いまでもガソリンの匂いを感じると、あのときの恐怖がまざまざとよみがえる。
あの日から直樹は言葉を失い、感情を隠すようになった――――。

秋晴れの暖かい日だった。
直樹の七五三を祝うため、郷里から出てきた留美子の両親を迎えに行く途中、空港へ向かう高速道路で渋滞に引っかかった。
底が抜けたような高い空に気をとられ、滝沢は前の渋滞に気づくのが遅れた。

『おっ、と』

少々強めのブレーキではあったが、充分な車間距離をとっていたため、速度を落として渋滞の列に並ぶことができた。

『パパ、気をつけないと』

『ごめんごめん、大丈夫だよ』

ハザードランプを点滅させて後続車に注意をうながし、急ブレーキをとがめる後部座席の留美子とルームミラー越しに目を合わせた、そのとき、背後に大型トレーラーがみるみる迫ってくるのがミラーに映った。

『え?』

滝沢が振り向いた瞬間、大型トレーラーに突っ込まれた真後ろの車が逆立ちするように跳ね上がり、秋空を閉ざして宙を舞うのが見えた。
鼓膜を引き裂くような破壊音がして、突然目の前が真っ暗になり、留美子の悲鳴が何かにかき消された。
あらゆる方向からの強烈な衝撃に振り回され、首に圧迫を受けた滝沢は、意識が遠のいていくさなか、かすかにガソリンの匂いを感じた。
そのあと病院で目覚めるまで記憶は飛んでいる。

十台以上の車が絡んだその事故で三人が亡くなった。
滝沢は鎖骨と肋骨の骨折、後部座席のフットスペースにはまり込んだ直樹はほぼ無傷で助かったが、留美子は命を落とした。圧死だった。


 
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