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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 
誰にも言いたくない、ひどく嫌な夢だった。

勤めを終えて倉庫の鉄扉をあけると、以前つきあっていた医師と暮らしたアパートに様変わりして、あれ、と不思議な気持ちなる。
急いで夕飯の仕度をしなければいけない状況で、焦りを感じて台所でバタバタと料理をするが、ある食材がどこを探しても見あたらない。
ある食材というのが何であるのか、目覚めたあといくら考えてもわからないのだが、とにかく夢の中ではその食材を探し回るのである。

食材を探すうち、なぜかトイレにしまい込んだことを思い出してトイレのドアを開けると、おくるみに包まれた生まれたての赤ん坊が、便器にすっぽりとはまっている。
どうしてこんなところに? と、慌てふためいて手を伸ばしたところで、突然トイレの水が流れ、赤ん坊は排水のしぶきにまみれながら便器の奥へと吸い込まれた。

悲鳴とともにそこで目が覚め、それが夢であったことに気づくまで真っ暗な天井を見つめたまま息を乱し、赤ん坊を救えなかったことにただただうろたえ、涙して詫び続けた―――。

不快な夢を思い出して寒気を感じた麻衣は、我が身を抱くように両手を交差させて、そぞろに鳥肌の浮き出た二の腕をさすった。


『ひゃ、かわいいっ』

体をかがめた女子高生らが、赤ん坊の注意をひこうと頬をふくらませたり、手のひらを開け閉めしている。
心地よさそうな笑みを口元に浮かべた赤ん坊の母親は、それとなく目尻からの視線をベビーカーに注いでいた。
どこか誇らしげな母親が不快で、麻衣はゆっくりと車窓の外に視線を移し、唇をかんだ。



 
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