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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 
郊外のひなびた駅で電車を下りた麻衣の耳に、アブラ蝉の鳴き声が充満した。
日照りのするホームのわずかな日陰を歩き、閑散とした改札を出たところで父に電話をかけた。
新しく舗装されたバス乗り場のアスファルトが夏の陽にきらきらと輝いていた。

携帯電話を耳にあてた父が、バス乗り場の向こうにある古書店から出てきた。
周囲を見まわした父は改札口で手を振る娘に気づき、幾分驚いたような表情のあと笑顔に戻して、かぶっていた中折れのストローハットを振った。

『ごめんなさい、遅くなっちゃって』

『いやぁ、いいんだ。
 おかげで掘り出し物を見つけた』

今年で五十五歳になる麻衣の父は、目尻に増えた小じわをいっそう深くして微笑み、脇にかかえた紙袋を指先でトントンと叩いた。
以前から欲しかった江戸時代の木版の古地図が、暇つぶしにのぞいた古書店に偶然あったのだと嬉しそうに言った。

『へぇ、希少な物なの?』

陽射しに目を細くして胸元をハンカチであおぎながら、麻衣が訊いた。
父はその質問には答えず、娘を心配そうに覗きこみ、

『疲れた顔だ。
 急に暑くなったからな。
 少し休んでいこう。
 お父さんも喉が渇いたよ』

と、古書店の隣にある喫茶店に視線をやった。
参るほどの暑さでもなかったが、久しぶりに電車に乗って人波に酔ってしまったのは確かだったので、麻衣は父の言葉に、うん、とうなずいた。

父のうしろについて入った喫茶店には、馥郁(ふくいく)としたコーヒーの香りがたちこめていた。
ドアに吊られたカウベルのくぐもった音が、いつまでも優しく転がる。
店内は薄暗かったが、間接照明の落ちついた明かりに目が慣れてくるにつれ、英国式のアンティークにこだわった内装であることがわかった。
邪魔にならないくらいの音量で流れるビートルズが耳に心地よく響き、慣れない電車に一時間近く揺られた麻衣の疲れをいやした。



 
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