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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 
当日、圭司は不精ひげをそり、渡瀬のスーツを借りて正装した。
実家までの道中、助手席の麻衣はいそがしく圭司の額や首筋をふいた。
何度も深呼吸したり頬を叩いたりして緊張をほぐそうとする圭司の、顔にかく汗が止まらなかったからである。

父の前での圭司の緊張ぶりは、体じゅうの関節から音が聞こえるのではないかと思うほどで、その実直さは父の心に響いたが、麻衣は、笑いをこらえるのに必死で口を閉じていた。

コーヒーをすすった圭司が震える手でカップを置こうとしたとき、「カタカタカタ……」と、とてつもなく速いテンポで皿とカップを鳴らしたのが可笑しくて、とり澄ましていた麻衣と父は、とうとうこらえ切れず吹き出してしまった。

それをきっかけにようやく場の緊張が解け、なごんだ空気のなかで話は弾んだ。
圭司は港湾地区の倉庫街で仲間と同居していることや、それに至るまでの経緯を説明し、そのうちの一人が大きな病気で入院していて、挨拶に来るのが遅れたことを詫びるなど、麻衣と出会ってからの来し方や、現在の仕事の状況や、将来の夢を熱っぽく話した。

そして、はっきりと結婚の意志を述べたあと、居住いを正し、

『麻衣さんをください』

と両手をついて頭を垂れた。
畳に額をつける圭司の耳は真っ赤になり、声は少しうわずっていた。
それに対し、父は座布団を外して座りなおし、

『不出来な娘を、どうか幸せにしてやってください』

と平伏して座礼したのだった。




 
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