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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 
『私の刺繍が賞をもらって
 役所に展示されたことあったでしょう?
 お母さん嬉しがって、用もないのに
 毎日役所に見に行ってくれた。
 看護師になりたいって言ったとき、
 お父さん喜んでくれたよね。
 しっかりした目標を持ってくれたのが嬉しいって。
 中学のとき私に初潮がきて、
 そのときお父さん、どうしよう、どうしようって、
 和子おばさんに電話して
 こっそり相談してくれてたのも知ってる。
 運動会だって、音楽祭だって、
 一番前で見ててくれた。
 高校の体育祭なんて、
 普通、男親なんて見に来ないんだよ』

私、なに言ってるんだろう? と、麻衣は、言葉が次々と出てくることに焦りを感じた。

『そうやって、
 お母さんが私を育ててくれたように、
 こうしてお父さんが私の前にいるように、
 あの人は……白石さんは、
 きっと子供を大切にする人よ。
 命に代えても子供を守る人だと思う。 
 でも私は、どんなにがんばっても
 あの人とそんな歓びを
 一生、分かちあえないの』

心のあちこちから集まってきた言葉を、麻衣は父に向かって、母に向かって、言い続けた。

『ああ、やっぱり贅沢なのよ。
 私は欲張りなんだわ。
 愛情いっぱいに育ててもらって、
 白石さんみたいな素敵な人に愛されて、
 これ以上を望んじゃいけないって
 何度も思ったわ。

 でも、でも……、
 哀しくて、哀しくて、しょうがないの。
 世の中には子供の面倒も見ないで
 遊びほうけてるお母さんがたくさんいるわ。
 毎日のように親の勝手で子供が死んでるわ。
 そんな人間でも身ごもれるのに、
 私にはそれが、どうしても、
 どうしてもできないの。

 ねぇお父さん、
 私はそんなに罪深い人間なの?
 どうして私はこんなふうになってしまったの?
 私は男の人を好きになっちゃいけないの?』

そう言ったとたん、麻衣の中で何かが弾けとんだ。
涙があふれ出た。
父のもとに駆け寄り、声を出して泣いた。

こんなことで泣いてしまったら父が可哀そうだと、欲張りな自分には、きっととてつもなく大きな天罰が下るだろうと、それがわかっていながら麻衣は父に寄りかかって泣いた。

麻衣の涙が止まらないのは、己の望みが叶わないからではなく、望みを叶える可能性のない人間であることが、たまらなく悔しくて、辛いからだった。


 
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