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星と僕たちのあいだに
第9章 涙のゆくえ
 
パリやミラノに飛んで何度も折衝を重ね、各地のコレクションを見て回り、インドネシアの縫製工場を視察したその足で中国へ飛び、繊維会社の役員と唾を飛ばして交渉した。
目まぐるしいスケジュールで世界をまわり、どこへ行こうが、相手が誰であろうが、早苗は対等に渡りあい、成果を持ち帰ることだけを考えた。

足元をみた侮辱的な条件を提示され、交渉の席でテーブルに書類を叩きつけたこともあった。
憎まれるぐらいの態度で意志を通さなければ無能扱いされるビジネスの世界で、早苗の行動力と明瞭で端的な性格は強みとなり、次第に取引企業やスタッフからの信頼を得られるようになっていった。

勢いよくまわるコマが自立するように、がぜん仕事に打ちこむ早苗の内部で、眠っていた戦意がめざましく回転しはじめ、いつしか事業に対する私欲を超えた内的動機が形成されていった。

早苗がもつ鋭い直観や、コミュニケーション能力の高さは自然に人脈をつくり、人脈は思わぬ出会いを生んだ。
懇意になった現地の仕立て職人に連れられて行った既製服のコレクション会場で、プライベートで訪れていた当時パリで売り出し中のフレデリックと、バックステージで言葉を交わすことができたのである。
仕立て職人とフレデリックは旧知の仲であった。

その思いがけぬ邂逅(かいこう)が、ビジネスを縫いあわせた。
早苗は、これまで何度も「フレデリックミシェル」との提携交渉を持ちかけていたが、買収にかかわるアポイントはすべて門前払いされていた。
だが、仕立て職人の仲介をきっかけに胸襟(きょうきん)を開いたフレデリックは、後日早苗との交渉の席をもうけたのである。

交渉では、「フレデリックミシェル」の株式の四割を商社側が取得する資本提携案を提示したのに対し、フレデリックは縫製技術や製品管理についての厳格さを要求し、双方が納得したことで、早苗はプロジェクトの足場を固めたのだった。


 
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