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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
 
ついでコハダ、アジと酢締めたネタが続き、赤身がふるまわれた。
佐和のペースにあわせて早苗もテンポ良く箸を伸ばした。
男性客よりネタを小さめにシャリを気持ち少なく握るのは、女性が大きな口をあけず食せるようにという主人の配慮であった。
それもあって二人は次々に出される寿司を食べ、酒もすすみ、独身女どうしの会話は次第に打ち解けたものとなっていった。

『安藤さんが手がけられた雑誌、
 拝見しましたよ。
 どのページもシンプルで、
 なんていうか、
 余計なものをそぎ落とす勇気というか、
 そんなこだわりを感じました』

佐和は両手の指先を重ねてカウンターの端にそえ、どうもありがとう、と可愛らしく小さなお辞儀をした。

『ファッション雑誌って、
 アパレルメーカーの言いなりでしょう?
 一度そうじゃないものを
 世に出してみたかったのよ。
 並木さんには叱られるかもしれないけど、
 メーカーから商品を送りつけられても、
 ふさわしくないものは扱わなかったの。
 広告出稿してるのになんでだ! って、
 営業部から大目玉を食らったわ。
 ルールとして許されることじゃないもの』

『うちの広告担当もぼやいてました。
 出稿差し止めようかって』

早苗がすねたようにおどけると、佐和はくすりと笑い、ごめんなさいね、と言って、主人に冷酒を頼んだ。

『でも内容が率直で
 アイテムを売り込もうっていう
 意図が感じられなくて、
 どの記事も安心して読めましたよ。
 とにかく写真が素晴らしくて……。
 本当に良い物を世に知らしめることって、
 社会に寄与するんだなって思いました』

切子細工のグラスに冷酒をさし合い、早苗は率直に感想を述べた。

『おほめに預かり光栄です。
 良かったでしょ? 彼の写真』

『彼って?』

早苗は一応とぼけてみたが、圭司がフレデリックミシェルの広告展開にかかわるようになった経緯を、情報通の佐和が知らないわけもなく、特に隠し立てすることでもなかったので、『あぁ』と、佐和の質問の意味に遅まきながら気づいたというフリをして、

『ええ、よかったです』

と答えた。


 
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