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星と僕たちのあいだに
第10章 揺らぐ鬼火
 

『マカロニが好きってことかな?
 食べる方の?』

食事のしぐさをしながら麻衣が訊くと、直樹は大きくうなずいて、

『うん、まかろに、すき。
 パパ、すき。
 まいちゃん、すき』

いつになく大きな声で言った。

『ありがと、
 私も直樹クンが好きよ』

今度マカロニで何かつくってあげるわね、と言いかけて、麻衣はぎりぎりで言葉を飲んだ。
してはならない約束であった。

自分の住まいを案内することにモチベーションを高めた直樹に導かれ、麻衣は滝沢家の水周りや、別の部屋も見ることになった。
『ねんね』と案内された部屋にはダブルベッドがあった。
二人の寝室であろう部屋の隅には、室内物干しに靴下や下着が吊るされてあり、たたみかけの洗濯物や直樹の着替えがベッドの上に積み重ねてあった。
そうした生活の断片に、麻衣は、滝沢の日頃の奮闘ぶりを想像した。

滝沢の書斎と思われる洋室は『パパ、おべんきょ』と紹介された。
壁一面の収納棚には、おびただしい数の本がせめぎあうように並んでいて、そのほとんどが材料工学にかかわる専門書であった。

視線を移すと、どこかの行楽地で撮られた家族写真が窓際の小さな机の上に立ててあった。
笑顔の三人が写っている。

――――(とっても幸せな家族だったんだろうな……)

いっときでも、そこに自分がとって代わると思い描いたことのおこがましさで、麻衣はやりどころのない恥ずかしさをおぼえたが、家族写真の楽しそうな雰囲気にそぐわない、滝沢父子の実直そうな暮らしぶりに切ないものを感じた。


 
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