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妄想シンドローム
第4章 愚者の後悔




 春馬を不本意ながら本気で怒らせて以来今日に至るまで、連絡が取れず仕舞いだった。その春馬という強力な味方を失ってしまい、杏璃は途方に暮れていた。


 彼曰く、小説が司への復讐に最も有効な手段。特殊な性癖が露見してから開き直った司を見てきた杏璃も、春馬の意見に賛同するようになっていた。


 だから慣れない執筆に励んできたし、官能小説や由奈から借りた18禁の漫画を読み漁ったりもした。


 しかし春馬の協力が得られないまま、一人で書いていく自信がなかった。よしんば書き通せたとしても、果たして公募に通る代物になっているか……。


 そうこう考えているうち、杏璃は執筆から遠ざかっていたのだ。


「どうかしたの?」


 司への復讐もそうだが、それよりも春馬と連絡がつかないことを気に病んで、つい俯いてしまっていた杏璃を由奈が覗き込む。


「うん、それがね……」


「二人で何話してるの?」


 切り出そうとしたところ、さっきまで火を熾していたはずの司がこちらへと歩んでくる。


 杏璃の表情がひとりでに強張る。すかさず由奈がフォローしてくれた。


「司くん! もうそっちの準備は出来たの?」


「うん、まぁね」


 と言いながら、司は杏璃が抱えていた野菜入りのボウルを「持っていくよ」と受け取る。








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