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妄想シンドローム
第3章 類はなんとやら



 夏休みのこのタイミングならば、学生がいることはまずないだろうというのが杏璃の考えだ。


 付近のアパートを借りている学生は遠方に住む者がほとんどで、長期休暇中は帰郷する者が多いと聞くし、近場から通う学生は休暇中までわざわざ足を運ぶ者はいないだろう。


 しかも杏璃が行こうとしている書店は、大学から少し歩かなくてはならない場所にあり、人通りも少なかった。


 そういった理由で、知り合いに会う可能性は極めて少ないと言える。だが念には念をだ。


 大学最寄駅のトイレに飛び込み、変装を終え、目的の場所へと予定通り誰にも会うことなく辿り着いた杏璃。


 古ぼけた店は、昔から地域に根付いてきた雰囲気がある。


 店内に入ると店のロゴが入る緑色のエプロンを着けた、主婦と思しき店員が二名だけ。男性よりも買いやすいな、とマスクの下の口はほくそ笑む。


 その店員からじろじろと見られたが、そこは気にしないようにして、一度店内をぐるりと一周し、知り合いがいないかを確認しつつ、それらしい本が置いてあるスペースの目星をつけた。






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