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曖昧なままに
第1章 忘れえぬ彼女
 俺はこれが夢であることに、既に気がついている。


『あははは!』

 その彼女は無邪気に笑うと、広い草原の中を駆け回っていた。顔には霧がかかっていて良く見えないが、俺は何となく可愛らしい女性だと感じている。

『うふふ』

 彼女は俺に追って来いとばかりに、挑発的に微笑んだ。だが俺が必死に捕まえようとすると、直前にその手からするりと逃れてしまう。何度も捕まえようと試みるが、一向にそれは叶わなかった。

 はあ……ふう……。

 俺は息を切らして、その場にへたり込む。すると何故か今度は彼女の方が、俺へと向かって駆け出した。しかも、全力疾走である。

 ――危ない!

 そう叫ぶも構わずに、勢いに任せ彼女は俺に激突。そのままを大地へと、身体が押し倒されていた。

 一体、何だよ……。

 ふて腐れるように顔を上げた俺は、とても意外な光景を目の当たりにする。

 はあ……何で?

 俺の上に馬乗りになっている彼女は、一糸纏わぬ全裸。ついでに俺までも、素っ裸になっていた。

 まあ「何で?」と問うのならば。夢とはそういうものだと、そんな答えが返ってくるのだろうが……。

 ともかくそれならば、愉しまなければ損というもの。そして誂え向きに、その点に於いて彼女は積極的であった。

『ねえ、しようか』

 流石は夢――といった処。何処までも都合良く事が運び、俺は彼女との情事に勤しむこととなってゆく。

『あ、あぅんっ――す、凄いよ!』

 俺が下から突き上げるように腰を動かすと、彼女はそんな声を上げる。形の良いその胸が、上下にぷるぷると激しく揺れた。

 しかし――

『どう? 私の中……気持ちいいでしょ』

 彼女が俺にそう訊ねた瞬間、当たりの情景が一変する。

 何だ……?

 それまでの朴訥な草原の風景は、マグマが噴き出す火山の麓へと移り変わり。晴れ渡った蒼空は、真っ黒な雲に覆われ雷鳴が轟き始めていた。

 それを目にして唖然する俺に、彼女は再び問う。

『ねえ、どうなの?』

 とても低いその声を耳にして。嫌な感覚を受けた俺は、二人の結合部を見た。

 え――!?

 その時、俺が目にしたのは――

 食虫植物の如き彼女の局部が、俺の下腹部を喰らってゆく――そんな場面。

    ※    ※

「うわあっ――!」

 思わず悲鳴を上げ、俺はベッドより飛び起きた。
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