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曖昧なままに
第16章 エピローグ
 その声が耳に届くと、ハッとする――俺。

 しかし、声がした方を見て――

「ああ……何だ。ちょっと、焦ったよ」

 俺はやや胸を撫で下ろすと、そう言って苦笑を浮かべた。

 『洋人』と呼ばれていたのは、砂場で遊んでいる幼児である。まだ一歳くらいなのだろう。おぼつかない足取りで転びかけた処を、母親らしき若い女性が手を携えていたのだ。

「あは。ヒロト――だってさ。あの子、パパと同じ名前だね」

 奈央がそう言うと、俺たちは顔を見合わせて微笑む。そして――

「さ、そろそろ戻りましょ」

 奈央にそう促され――

「うん」

 その場を、立ち去ろうとした、俺たち――。


「……」

 だが、その瞬間――何故か俺はもう一度、後ろを振り向いていた。

 自分でも良くわからないが、少しだけ懐かしい匂いを感じた気がして……。

 すると、その時――。

 幼児を抱き上げている、その母親と不意に視線が重なっていた。


 ――――あ!


 俺はその姿を目の当たりにして、身体を硬直させている。


 『洋人』という名の、その子を胸に抱き――


 俺を微笑を向けていた、その彼女は紛れもなく――





「…………愛美」





          【完】
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