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曖昧なままに
第3章 白くない聖夜
 大量の放出を果たすと、まるで長距離を走り抜いた後のように俺は脱力していた。心地よい疲労感と表現し難い罪悪感が同時に訪れ、その思考にも混乱を来たしている。

 何処か霞のかかった如き視界の中に――だが確かに俺はその姿を見ていた。


『あはっ! すごぉい!』


 それは夢の中の出来事のようでもある。

 俺の吐き出した精液を身体に浴びて、愛美はとても満足そうに喜びを顕わにしたのだ。

 綺麗な肌はローションを塗ったように光り、口の中に出された一部を垂らしつつ、それでも愛美は手に纏わりつく液体を愛おしげに眺めている。

 その様子は、とても不可解だった。それまでの愛美を思い返すほどに、俺は違和感を覚えずにはいられない。

 しかし己自身で彼女を汚しながらも、俺にはその表情が更に美しくさえ思えていた。それがまた、何とも不思議で……。

 そして愛美はふと俺に視線を向け、こう訊ねた。


『私――上手にできましたか?』


 まるで自分の成し遂げたことを、褒めてほしい幼子のような顔。

 だが俺を見据えた瞳だけはとても虚ろで、その真の感情を隠しているようにも見え――るような――。

    ※    ※

「――!?」

 ハッとして目を覚ましたのは、次の朝だった。そこはアパートの自室のベッドの中。耳元では目覚ましが、その存在を示すように五月蠅く鳴り響いている。

 俺は耳障りなその音を消すと怠い身体を起こし――

「はあ……」

 と、深いため息をついた。この日も仕事。大変嫌だったが、もう会社に出かける時間だ。諦めてベッドから這い出ようとすると、俺は自分の身体の変化に気づく。

「ん……?」

 スウェットの股間に張られたテント。所謂、朝立ちというやつだった。二十代の時分ならいざ知らず、俺の年齢になれば毎日とはいかない。

 しかも昨夜はあんなに――と、そう考えた時。俺はついさっきまで、愛美の夢を見ていたことを思い出した。

「だからか……」

 思わず、そう苦笑して思う。あれは強烈だった、と。夢で反芻された光景は、紛れもなく現実にあったことだ。

 それを改めて実感しているから、その膨張は一向に鎮まる気配を見せなかった。
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